留学のすすめ6: 留学生の勉強術 (高井哲彦 Vol.5)

留学マニュアル

■留学先で落ちこぼれた!
◇海外で初めて専門授業を受ける場合、苦労するのは想定の範囲内です。日本での週2-3回程度の語学講座しか履修したことがない場合、最初の数ヶ月は講義が理解できなくても仕方ありません。
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◇第1に、恥や外聞を捨てて開き直りましょう。留学生は、日本では外国語を得意科目とし、高学歴で上昇志向の優等生も多いはずです。憧れの海外現地で、言葉が下手なゆえに子供扱いされるような状態は、さぞ屈辱的であるでしょう。しかし、余計なプライドは成長を妨げるので、恥も外聞も捨て裸一貫の挑戦者として大胆(ヤケクソ)に冒険してみましょう。「ぼく/わたしは馬鹿だピョーン」と大声で叫ぶことを勧めます。もはや失うものがありません。最底辺からの再出発は、「おっ、意外にやるな」とむしろ評価が逆転する可能性があります。
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◇第2に何事もポジティブに考えましょう。日本人は現地語が下手だと小さくなる傾向がありますが、外国人には八方破れの言葉で堂々と発言する人が少なくありません。外国人教員にも、無茶苦茶な英語で講義する人が多々います。また、北大に学籍を残している人は、留学で頑張れば帰国時には一定以上の将来がほぼ約束されています。とくに交換留学や25歳以下ならば、留学先でいかに落ちこぼれようと、何も失うものがありません。
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◇第3に、コミュニケーション力です。留学初期はまず現地人の優等生を真似し、その水準・作法に追いつきましょう。教員の話が分からなければ質問に行き、ノートが取れなければ級友にコピーを頼み、レポートに不安があれば添削してもらい、グループワークでもフォローしてもらいましょう。そのときに必要なのは、何が何でもこの単位を取るという意志と、周囲にサポートしてもらえるような普段からの人望です。言葉もなくうつむいているだけでは、何も動きません。
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■落ちこぼれの初期対応
①日本人は、語学研修のクラス分けテストでも、実力以上のクラスに入れられてしまいがちです。しかし、口達者な人に圧倒されて黙り込むより、「やや易しい」と感じるクラスでたくさん話す方が、上達します。
②専門講義が分からない場合、何も分からないまま、闇雲に専門科目に出席し続けても、状況は改善しません。留学初期は語学習得に集中すると割り切り、語学に依存しない基礎科目や数学系科目を選びましょう。
③語学力の不足を自覚したら、専門研究の時間を思い切って削り、語学研修に時間を大幅に割きましょう。語学力をいい加減にしたままでは、専門の成果も上がりません。交換留学中の長期休暇に、私費で集中語学研修をやり直した人はたくさんいます。自費の夜学で語学学校に通うのも生き残りの手段です。
④日本人が欧米人より強いのは一般に、数学・統計学、物理学・理論経済学、アジア論、そしてグランドセオリー・教養全般でしょう。逆に、グループ・ディスカッション系やプレゼンテーション系では苦労する人が多いようです。ただ、味噌っかす扱いで辛い思いはしても、親友が増えて勉強力が開花することもあります。
⑤日本研究を専門とすることは賛否が分かれます。日本・日本語に関心のある同級生に恵まれますが、安易に日本を武器にしない方が普遍的な力を鍛えられるとも言えます。
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■講義の言葉が分からないとき
①未知の単語でも、何度も繰り返されるならば、重要キーワードです。ローマ字でメモし、講義の合間に隣人にノートを見せてもらうか、講義直後に隣人に聞き、必ずマスターしましょう。授業中に辞書を引くのは、論理を追えなくなる危険があるので、最低限にすべきです。
②途中で意味が分からなくなったら、潔く白紙部分を作り、意味が分かる部分を書き続けましょう。そして講義直後に隣人にノートを見せてもらいましょう。重要なのは、どんなに白紙部分があろうとも、授業終了後まで集中力を切らさず、全体の論理構造を追うことです。
③隣人にノートを見せてもらうとき、一番チェックするべき点は、自分の小見出しと論理構造の全体把握が正しかったか否かです。もし間違いがあった場合、いつ頃に集中力が切れて、分からなくなってしまったのか、「誤解のパターン」を把握して直すべきです。
④外国語の講義や議論は、「ああ、もう分からない」と諦めて気を抜くと、途端に言葉が脳みその表面を滑り始め、今まで分かっていた話も頭に入らなくなります。多少分からない部分があっても、話に食いつき、論理にしがみつく忍耐力が大切です。
⑤ICレコーダーは賛否両論があります。録音再生で構文や構造をきっちり把握し、少しずつスピードアップすることは生産的です。単語だけを雰囲気だけを流し聞きして、分かったつもりになることは危険だからです。他方、1時間の授業を聞くのに、2時間以上かかります。録音はできだけ早く卒業し、疑問は授業時間内に片付ける方が良いでしょう。
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■ノートの基本技術
◇欧州人教員には板書もパワーポイントも使わない人がいます。たとえレジュメがあっても、ノートを取らずにボーと聞いていてはいけません。逆に、板書や口頭説明を片端から改行もせず丸写しする現地学生もいますが、欧州人によくある悪癖なので外国人が真似する必要はありません。
◇良いノートとは、論理構造を自分で取捨選択し再構成したものです。口頭説明の論理構造を自分なりに再構成してノートを取る技術は、専門書を読みながら論理構造を理解して吸収する技術と、実は表裏一体です。講義をナチュラルスピードで理解できれば、専門書も同じ速度で速読できます。
◇逆に、母国(語)で論理的なノートを取る習慣がなかった人は、ノートの取り方から学び直さないと、専門書もきちんと理解できず、外国語での専門学習も成長しないでしょう。高校から海外留学したり、外国語習得だけに専念してきた留学生にありがちな落とし穴です。
①まず今何が話されているか、小見出しをつけましょう。
②話がどこで転換するかに留意し、次の話題に移ったら再び小見出しをつけましょう。
③小見出しと小見出しの間の論理的な連関に留意し、論理マークをつけましょう。授業が終わったときに、全体の論理構造・階層構造を振り返られるようにしましょう。
④構造とは、序論、本論、仮説提示、証明解説、反証、例示、比較、結論などです。論理マークとは、矢印、等号、cf.(参照)、i.e.(すなわち)、e.g.(たとえば)、∵(b/cなぜならば)、vs(しかし)などです。
⑤「3つの理由がある」と言われたら、①、②、③と並列します。「しかし」「ところが」という逆説の論理転換は改行します。
⑥自分が分かる単語をできるだけたくさん拾い、小見出し毎に列挙しましょう。単語と単語の論理的な連関に留意し、階層的に段違いに位置づけ、論理マークでつなげましょう。
⑦最終的に、これは最重要点だ、これは追加説明だ、これは事例・反証だ、これが1-3つ目の論点だ、話題が転換した、これが結論だ、と構造を押さえられればOKです。
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■速読の基本技術
①書籍の1章分または1論文について、小見出しと段落にそれぞれ番号を振りましょう。
②小見出しが5つあれば、各節のどれが要約・結論を含む最重要部分なのか、どこが事例や理由説明か、1/5ずつ内容把握しましょう。
③各節内でも、各段落の最重要部分を把握しつつ、要約・結論を含む最重要段落、理由説明の段落、事例紹介の段落と、段落を分類しましょう。
④段落を要約しつつ、段落間の論理構成を組立てながら読みましょう。段落要約と論理把握を反復的に訓練し、精度を保ったまま読解速度を少しずつ上げましょう。
⑤重要部分さえ丁寧に読めば、事例等は飛ばし読みが可能です。しかし、第一印象での分類を誤解し、重要な反証を読み落とした場合、趣旨を正反対に読み間違える可能性もあります。その場合、「何かおかしい」と引き返す勘も、読解力の一部です。
⑥読む速度、聴く速度、話す速度、書く速度は、「外国語で考える」速度と一致します。英語のナチュラルスピードのままで論理構造や構文(関係代名詞や修飾節等を含)を理解することが理想です。
⑦大部の書籍や大量の論文の場合、精読だけが正解ではありません。教員がいかなる最終成果を求めるかを予測し、優先順位を取捨選択しましょう。書籍に関する良質な書評や解説論文(とくに批判論文)・邦訳等を検索・入手することも「速読」の一部です。
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■プレゼン・レポートの基本技術
①プレゼンやレポートの外見だけでも、成績評価の10-30%は左右されます。論文構成や脚注、参考文献のフォーマットに自己流な過不足があるだけで、アカデミックなトレーニングを受けていないと決めつけられ、評価の心象が悪くなります。
②『論文・レポートの書き方』、『大学(院)生の勉強術』、『手紙の書き方』等の本は、留学の早い時期に必ず各1冊ずつ買うべきです。周囲の優等生の事例もどんどん真似しましょう。冒頭に「型」をカッチリ学ぶと、終盤の伸びが違います。
⑪レポートやプレゼンでも、日本の卒論の大げさなフォーマットを採用しましょう。序論(先行研究・研究方法・論文構成)・本論・結論、脚注、図表・出典、参考文献等の章構成。「第1に、第2に、第3に」等のピラミッド型の論理構成。学術論文特有の表現や慣用句、複数の接続句を暗記しましょう。
⑫文献・WEBからのCopy&Pasteで大減点を食らう留学生がたくさんいます。文章力に自信がないと、意識・無意識に、参考文献の文章をそのまま引用したくなる誘惑に駆られるからです。しかし、留学生の文章の中にネイティブ特有の言い回しが混ざると、目立つのですぐバレます。そこで書籍を参照するときは、一端本を伏せることを勧めます。まず頭にある理解内容を自分の言葉で書き、ひと段落書き終わってから、再び本を開け、不正確な部分を修正するのです。
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■ハイリターンを狙うレポート術
①課題に100%忠実に答えることは最前提ですが、外国人特有の幼い文章表現で20-30%減点されてしまうと、70点以下になってしまいます。そこで、予め+10-30%のプラスアルファ・付加価値を心がけて、初めて百点に近い好成績が取れます。コツは、「ここぞ」という勝負所で講義枠組みをわざと超越し、「おっ、こいつは馬鹿でない」と思わせるハッタリをかますことです。ハイリスク・ハイリターンを狙うのです。
②海外大学の学部課程には、ゼミ・研究室単位の少人数教育・卒業論文指導がないことがあります。そこで、日本のゼミ・研究室で学んだスキルをアピールすると、見直される可能性があります。たとえば以下のようなものです。
◇学術雑誌論文検索(Web of Science, Current Contents等)による専門論文の引用
◇リモートアクセスによる北大図書館データベース(CiNii、新聞等)の活用
◇統計図表・回帰分析・グラフ表現・概念図
◇インタビュー調査・訪問調査・アンケート調査
◇グランドセオリー(理論書)の引用
◇完璧なフォーマットによる参考文献一覧と脚注
◇レジュメ・付録の印刷配布やポスター提示
③課題図書とは別分野の文献資料を引用・比較し独自性を強調してみましょう。課題図書を読む時間・労力の+10-20%を、別図書の読解にあてるのです。ただし、他科目のレポートをCut&Pasteするのは逆効果です。
④ケーススタディで母国の事例を盛り込むのは留学生の常道です。日本企業の勤務経験がある場合、それを強調するのも良いです。しかし、日本への関心が落ちている近年、日本特殊論は、「ああ、日本はたしかに特殊だね。でも興味ないや」と言われてしまえば終わりです。
⑤日本と留学国に第3国を加えた3ヶ国以上を客観比較すると、説得力が増すでしょう。たとえば「日本は米国とここが違う」だけではなく、「日本と中国はこの点で共通し、その共通基準に照らして米国はここが特殊だ」と主張するのです。
⑥海外では知られていない日本の最新研究を引用するのも選択肢です。研究史・論争点を要約紹介した上で、学派名や研究者名を説明します。海外の未知の最新動向に興味を持つ教員は多く、留学生がその貴重な情報源になれば大切にされるでしょう。
⑦担当教員の研究業績を検索し、レポートや試験回答で引用するのは、ハイリターンです。とくに批判はハイリスクですが、喜ぶ先生もいます。いずれにせよ、誤解は致命的です。
⑧勉強のヒントは、教室だけではなく、教室外にもあります。現地企業でのアルバイトやインターンシップ・ボランティア、第三国への短期留学・語学研修、途上国の長期旅行、資格の取得なども、成長のヒントになる可能性があります。
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留学のすすめ1: 留学の7つの誤解 (高井 Vol.5)
留学のすすめ2: 交換留学のすすめ (高井 Vol.5)
留学のすすめ3: 語学の学習 (高井 Vol.5)
留学のすすめ4: 留学の準備 (高井 Vol.5)
留学のすすめ5: 留学の生活術 (高井 Vol.5)
留学のすすめ6: 留学の勉強術 (高井 Vol.5)