留学のすすめ4: 留学の準備 (高井哲彦 Vol.5)
■留学の学習準備
◇留学計画では、卒業論文・専門・進路との関連、留学先での調査・実践計画、渡航までの学習準備を具体化し、指導教員とよく相談し同意を得ましょう。
◇留学国について、参考すべき書籍とホームページを各10点ずつリストアップしましょう。
◇参考書籍リスト
以下の4部門から最低1点ずつ選び、借出、複写、購入、持参を取捨選択しましょう 。
①政治・経済・文化・歴史の専門書・入門書・事典(とくに新書は持参)
②旅行記・体験記・グルメ・サブカルチャー等のエッセイ・ルポ(とくに文庫は持参)
③留学国の作家による/留学国を舞台とした小説・音楽CD・映画DVD等
④留学・海外「生活」のガイドブック(「観光」情報は後回し)
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◇ホームページ
以下の6部門から最低1点ずつ選びましょう。
①政治・経済・文化・歴史・文学・芸術のポータルサイト・リンク集(日本語・英語)
②主要企業群の現地本社・日本支社HPや各種統計リンク(英語/日本語)
③日本大使館・日本人会・日本商工会議所・JETRO事務所・JICA事務所・日系企業などの現地事務所(日本語)
④新聞・テレビ・Podcast等のメディア(日本語・英語)
⑤留学生・生活者・研究者のブログ(日本語)
⑥スポーツ・文化活動・ボランティア・インターンシップ等の課外活動(英語)
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◇旅行ガイドブックでは、『地球の歩き方』は地図・写真と買物、ミシュラン・ガイドは美術・歴史解説、Lonely Planetガイドは田舎旅行術に定評があります。が、長期滞在なら明石書店の『エリアスタディーズ』(『XX 国を知るための XX 章』)を持参して読み返した方が良いでしょう。非英語圏ならば、たとえ英語が通じる地域・人でも、現地語の『旅の指さし会話帳』程度は持参して実践すると、友達作りにも買物交渉や危機管理に役立つでしょう。留学生なら現地語手紙例文集や現地語論文執筆入門書の現地購入も勧めます。
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■帰国後を見越した学習計画
◇学部3年生や修士1年生の場合、留学前に卒論テーマについて20以上の専門書を読み、先行研究を分類整理した「Bibliographical Essay」を書くことが理想的です。
◇留学終了後に何をするか、いつ帰国するか、予め具体化しましょう。帰国後すぐ就職活動を行う人は、予めリクナビやみんなの就職活動日記等に登録し、100社を目安にエントリーしておきましょう。企業インターンシップやNGOボランティアも検討しましょう。
◇語学試験の受験は帰国直前直後が望ましいですが、海外現地で申し込む必要があるでしょう。非英語の場合、最低級でも言語資格を取っておくことが財産になります。現地でしか受験できない試験もあるので、現地の語学教員に質問してみましょう。
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■留学の生活準備
◇以下のものは他に先駆けて準備しましょう。
①手続き: パスポート、入国査証、入学許可証、入寮許可証。
②体調管理: 予防接種(破傷風・A型肝炎・黄熱病)、歯科治療(保険対象外)、身体検査。
③契約購入: VISAデビットカード(国際キャッシュカード)銀行口座、クレジットカード、航空券、海外旅行保険、国際学生証、証明書用写真、英語名刺、SIMフリー携帯(日本購入か現地購入か)、Western Union送金のシミュレーション(実家含む)。
④危機管理: パスポート・海外旅行保険証等のコピー・クラウド保存。緊急連絡電話一覧の携帯電話・クラウド・手帳への登録(海外旅行保険の緊急電話番号、クレジットカード・キャッシュカードの事故連絡番号)、各種資料ファイリング。
⑤パソコン: Skype用マイクヘッドホン・ウェブカメラ(実家設定を含む)、Webmail(Gmail等)、Online Storage(Dropbox/Google Drive等)。
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■留学資金
先進国の生活費は、渡航費・学費と別に月15万円は必要でしょう。他方、途上国の場合、共同シャワー・現地式トイレ・屋台飯に適応できれば、半額かそれ以下でしょう。留学中のアルバイトは非現実的です。
北大国際本部HPや日本学生支援機構JASSOのHPで奨学金を確認しましょう。有利な奨学金が増えています。予算が足りなければ、まず留学の是非を再考すべきですが、各種奨学金、貸与奨学金・教育ローンもあります。就職が決まっているなら、家族への借金や大学生協ローン(最大50万円の生協の航空券・語学研修費を最大36回分割払い)等も選択肢です。
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■留学交渉のコツ
◇留学は準備段階から始まっています。うまく行かないで当たり前、1日に1件進んだらラッキーです。連絡をただ待っていてはいけません。Emailに返事はまず来ません。そこで、まず電話して担当者の個人名を探し当てるのが、海外で一般的な交渉手順の第一歩です。
◇依頼事は、他人行儀・事務的な手続き論では動きません。「ハイ、マリー。休日を楽しみましたか? 私の方は・・・」と、パーソナライズした世間話を交えたり、ささやかな差し入れをしたりすることで動き始めます。「現地語の」手紙文例集を1冊買うと役立ちます。
◇交渉事はまず、裁量権のある上層責任者に辿り着く必要があります。そのためには、傍証を含めた参考書類の量が決め手です。窓口の下級職員は、例外的な自主判断を嫌い杓子定規に却下する傾向があります。「これほど証拠が揃っているなら自分の一存では判断できない」と思わせるのです。関連書類はすべてファイリングして保存しましょう。
◇泣きたくなるほど辛い悔しい腹立つ思いをしたとき。1年以内にあと3回は同レベルの困難が降りかかると覚悟しましょう。マラソンで「もう駄目だ、限界だ!」と思ったとき、実はそれから後の方が長いのと同じです。
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■留学生を送りだす家族の準備
海外留学で家族の役割は大切です。海外知識の多寡によらず、親には親の役割があります。「お前が好きなようにやると良いよ」と放任するのは危険です。脱線の兆候や救援信号を見逃すと、留学が台無しになります。本人が命にかかわる事故に巻き込まれたとき、家族が救援に行かざるをいけないことがあると危機感を持つべきです。旅行ガイドや『地球の歩き方・成功する留学』『留学事典』等を(本書も)1冊手元に置いておくと安心です。
ご家族に以下のチェックポイントを勧めます。留学生本人も意識すると良いでしょう。
①いま留学することが本当にベストか? 時間・費用・労力に見合った成果があるか? 外務省・海外安全ホームページは、留学先・経由地・周辺に危険情報を発令していないか?
②達成目標と期限が明確かつ具体的か? 好例:X月X日までにTOEIC 730、専門単位XX。
③良質な助言者がいるか? 好例:研究室教員・語学教員・専門職員、海外駐在・国際業務・海外学位の経験者。悪例:留学斡旋業者に丸投げする。
④留学費用の見積もりは妥当か? 親が留学資金を出資・貸与するなら、達成目標の誓約書を書かせる。帰国後に出席・語学証明書を提出させる。貸与奨学金や教育ローンも可能。
⑤報告・連絡・相談(ホウレンソウ)は大丈夫か? Skype、マイクフォン、WEBカメラ、携帯電話は必須(Emailは不十分)。ブログ、Facebook, Line, Twitter等を把握しているか。通学態度、友人・教員、成績は? 旅行時はE-Ticketやホテル予約メールを転送させる。
⑥危機管理は大丈夫か? パスポート、海外旅行保険証書・緊急連絡先(カード付帯保険は危険)、旅程表・Eチケット、留学連絡先・学校連絡先のコピーを常に手元に置く。
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■留学派遣者の指導教員・担当職員の役割
私個人は以下をチェックポイントとします。留学生本人および指導教員の参考まで。
①推薦書を依頼されたら、志望校・留学時期(半年か1年か)、語学スコア、成績証明書、志望動機書、国際経験(海外旅行、短期プログラム、留学生交流等)を提出させる。
②推薦書を執筆する前に面談する。
◇志望動機書では、「語学力向上」「異文化経験」等の一般論は全文割愛させる。
◇より具体的な卒業論文テーマ案や進路計画案を問う。
◇留学時期が卒業論文や就職活動等に支障がないか、問う。
◇語学スコア・専門成績が悪い場合、留学の延期または留学以外の選択肢を再考させる
③指導教員に危険国経験と責任の覚悟がない限り、学部生の危険国派遣は勧めない。
④推薦書は、美辞麗句より危機管理が重要なので、短所や懸念・保留も明記する。
⑤履修科目・成績と宿泊旅行(渡航・休暇・帰国を含む)は、必ず北大(国際本部、部局教務、指導教員)に事前報告することを約束させる。
⑥履修科目は、北大で同学年の専門科目に認定されるものを(余裕があれば現地語研修も)推奨する。学年違い・専門違いの科目を学びたいなら、交換留学を選ぶべきでない。
⑦留学開始直後に履修科目、休暇前に休暇旅行、学期終了時に成績、留学終了前に帰国予定の報告を怠る場合、危険信号。報告を催促する。放置すると重大な逸脱を招く。
⑧個人的経験では、Email連絡が滞ったり、(無意識に)隠し事をしたりする場合、必ず何らかのトラブルが生じている。Skype電話相談や一時帰国提案等、真剣に対応する。
⑨留学先の学期が終了しても、北大学期中ならば、速やかに帰国させる。帰国直前の休暇旅行に事故・不祥事が集中。交換留学制度をリスクにさらす逸脱には厳罰を考える。
⑩宿泊旅行は、Eチケットを事前にEmail提出させる。旅行は交換留学の主目的ではない。大旅行がしたいならば、帰国して交換留学を終了させ、別途、旅に出れば良い。
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留学のすすめ1: 留学の7つの誤解 (高井 Vol.5)
留学のすすめ2: 交換留学のすすめ (高井 Vol.5)
留学のすすめ3: 語学の学習 (高井 Vol.5)
留学のすすめ4: 留学の準備 (高井 Vol.5)
留学のすすめ5: 留学の生活術 (高井 Vol.5)
留学のすすめ6: 留学の勉強術 (高井 Vol.5)