スウェーデン ヨーテボリ大学 交換留学 & 英国 エクセター 私費英語留学 (Vol.2)

ヨーロッパ

≪はじめに≫

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 私と英語の出会いは小学2年生にまで遡る。母方の祖父が初めて英語を教えてくれたのだ。好奇心旺盛だった私はすぐに興味を持ち、それ以来、与えられた英単語の絵本に食いついて離れなかった。残念ながら小学生時代英会話学校に通う時間は取れなかったのだが、それでも英語に対する興味は衰えることがなかった。
 中学に入って英語を学ぶにつれ、留学に対する意識は強くなっていった。大学生になったら絶対留学しよう、そう決めていた。それがついに現実になる時が来たのだ。行き先はカナダ、3ヶ月後の出発を前に着々と準備を進めていた。ところが人生どうなるか分からないものである。スウェーデン、「福祉の国?」それくらいしか知らなかった所にまさか自分が留学することになろうとは考えもしなかった。
 ある助教授のもとへ留学について相談に行った時、初めてスウェーデン留学を耳にした。それが11月1日。私の好奇心に火がついた。「カナダならいつでも行ける、でもスウェーデンはこの機会を逃したら一生行かないかもしれない。スウェーデンでは(私の卒論のテーマ候補として挙がっている)女性の雇用環境も世界一といって過言ではないほど進んでいるし、きっと学ぶものも多いはず!」これが、私がスウェーデンに留学しようと決めた理由である。それ以降、留学先へのコンタクト、イギリス語学留学の準備、休む暇もなく進めていった。そして、日本出発2月22日。13ヶ月に及ぶ私の留学は始まった。
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≪イギリス語学留学≫

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 スウェーデンに留学するに当たり、元々カナダに1年間語学留学しようと考えていた私は、英語には全く自信がなかった。そのまえに出来れば英語圏に短期留学したい。そういう訳でスウェーデンから近い英語圏、イギリスに一ヶ月滞在することにした。選んだ都市はエクセター(Exeter)、イングランド南西部の中心に位置し、文化の中心とも言われる町である。イギリスに行くからには歴史ある古い町に行きたい、そして日本人がいなさそうな所、これらがエクセターに決めた理由である。
 2月22日、ロンドン・ヒースロー空港到着、英語だけの生活が始まった。ヒースローからエクセターまでは長距離バス(coach)で4時間。長旅である。バス内では殆ど寝ていた為、気付いた時にはエクセターに着いていた。ホストペアレンツとの対面はものすごくドキドキした。私の英語は通じるのか、とても不安だった。幸運にも彼らはとても優しい夫婦で、緊張していた私の心はとても癒された。
 語学学校は私の期待を裏切って全校生徒20人中日本人10人、韓国人5人、ヨーロッパ人5人だった。しかし、不幸中の幸いとでもいうのか、私の通ったIsca School of English[1]は生徒一人一人の学習意欲がとても高く、日本人同士でも当たり前のように英語を話す環境が出来上がっていた。これは何よりも私が望んでいた環境であった。

[1] ホームページ http://www.iscaschool.com/

 私が入ったクラスは私を含め日本人2人、韓国人2人、スイス人1人、ポーランド人1人の計6人だった。私を除いて皆長期滞在者ということもあり、私が入ったときには皆との英語レベルの差が歴然だった。それに加え、イギリス英語の壁にぶち当たった。イギリス英語とアメリカ英語は私にとって全く違う言語に聞こえて仕様がなかった。同じ単語でも発音が違い、同じことを言うのでも表現方法が違う。先生にもよく注意され、今まで習ってきたアメリカ英語を全否定された気持ちになった。最初はムキになってアメリカ英語を使っていたが、「郷に行っては郷に従え」とよく言うもので、そのうちイギリス英語に抵抗感を覚えなくなっていった。今思えば、アメリカ英語とイギリス英語の違いを学ぶ事が出来たというのは、非常にいい経験になったと思う。覚えた語句や表現もそれだけでかなり増えた。
 語学留学は私にとって2回目である。一回目は高校2年生の春休み、カナダ・トロントへ2週間行った。あれは完璧に観光でしかなかった。親に援助してもらったものの、旅費の半分は自分がアルバイトで稼いだ。それなのに語学学校では日本人と話してばかり、週末は観光、英語が話せなかったためホストファミリーともコミュニケーションが取れず、一体何をしにいったのか分からない留学だった。この失敗を教訓に、今回のイギリス留学は絶対成功させたかった。結果、とても有意義なものになったと思う。1ヶ月という短い期間で、学んだものはとても多かった。英語はもちろんのこと、他国の友人と話す機会を通じ、文化の違いについても沢山知る事が出来た。
 私の留学時期はまさにイラク戦争直前の世界緊張状態であった。その為、友人とそのことについて語る事も何度かあった。その時、自分がいかに世界情勢に無関心だったかということを思い知らされた。日本では海外ニュースを気にかけるといっても、どうしてイラクとアメリカが戦争をしようとしているのか、フランスはどうしてイラク戦争に反対したのか、そんな基本的な内容にさえ目を向けることがなかった。戦争に賛成・反対の議論をしようとすら思わなかった。ところがヨーロッパ出身の友人はそれについて語りだしたら止まらず、何も知らない私は議論に参加出来なかった思い出がある。これは私だけではなく、周りにいた日本人の友人にも共通していたことであった。大陸世界と島国世界の違いと言ってしまえばそれまでだが、日本人の中に韓国や中国との関係を語れる人はどれくらいいるのだろうか、と疑問に思った。自国について知るのはもちろん、世界との関わりに目を向ける気持ちを忘れてはならないと改めて感じた。
 一ヶ月の滞在はあっという間に過ぎ、3月25日、スウェーデンに発つことになった。ホストペアレンツとの別れは本当に名残惜しいものであった。二人はいつも私のことを気にかけてくれていたし、色々な所にも連れて行ってくれた。二人から学んだイギリス文化も数えられないくらいだった。おかげで私は全くホームシックにかからず、その代わり、もう会えないのかと思うととても悲しくなった。こらえていた涙は最後の最後に抑えられなくなってしまった。
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≪スウェーデン交換留学≫

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 エクセターからヒースローまで4時間、さらにスタンステッド(Stansted)空港まで1時間。長距離バスで隣になったイギリス人のおじさんと会話しながらの旅だった。知らない人と会話できるようになったということは、私の英語も少しは上達したということだろうか、と嬉しくなった。
 3月25日、イギリスの格安航空会社[2](Ryanair)を使ったということもあり、スウェーデン行きの飛行機の中ではアジア人は私1人だけのようだった。これからどんな生活が始まるのか全く検討もつかなかった。ただただ無事スウェーデンの地を踏みたい、それだけしか考えられなかった。
 丸一年間のスウェーデン留学について振り返るにあたり、大きく学生生活と日常生活に分けて、日本とスウェーデン比較をしていこうと思う。

[2] ヨーロッパ内を旅行する時は、Ryanair(http://www.ryanair.com/)、Easyjet(http://easyjet.com/en/book/index.asp)、Virgin Express(http://www.virgin-express.com/)や各航空会社のユース料金で旅をすると大変お得である。

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大学生活

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 大学にはイェーテボリ(Goteborg)到着翌日に行った。噂には聞いていたものの、Handelshogskolan[3](経済・商法学部、通称Handels)はあまりにも綺麗過ぎて落ち着かなかった。スウェーデンでよく見られるロの字型の校舎、ガラス張りの、いかにもお金がかかっていそうな学部である。大講堂にはそれぞれ、出資したと思われる会社(Volvo、SKFなど[4])の名前が付いており、面白いと思った。また、スウェーデンでもトップレベルの学生が集まった学部には、校舎だけでなくお洒落に気を遣った学生も多い。これが私のHandelsに対する第一印象である。
 スウェーデンのAcademic Yearは9月から翌年6月、さらにAutumn SemesterとSpring Semesterがあり、その中でもFirst QuarterとSecond Quarterに分かれている。計4タームで、タームごとに授業があるので、大体一つのコースが1ヶ月半から2ヶ月くらいの短いものである。大学の学期システムが日本のものと大きく違うので、Spring SemesterのSecond Quarterからの留学という、日本のAcademic Yearに合わせて留学出来たのは非常に好都合であった。ちなみに交換留学生は1タームに2つまでしか授業が取れないのだが、二つでも単位を取るのに苦労したものだ。

[4] Vovloは言わずと知れた車会社で本社はイェーテボリ、SKFはベアリング世界トップクラスの会社である。

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授業

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 最初に履修した授業はInternational Economics and Financial Marketという授業で、約30人の学生の殆どがスウェーデン人、留学生は5人程しかいなかった。授業は英語の為、てっきり留学生専用のコースかと思っていたが、スウェーデン人も普通に英語の授業に参加していたので、とても驚いた(もちろん留学生専用の授業もある)。
 ちなみにスウェーデン人は40歳以上の人達を除いて、大半の人が何不自由なく英語を話せる。それもそのはず、テレビチャンネルの半分はアメリカやイギリスから輸入した番組を字幕付きで放送しているし、8~10歳くらいから学校で英語を学び始めることもあり、日常生活の中で英語と触れ合う機会の多さが日本とはかけ離れている。また、移民を広く受け入れているこの国では(今ではこの移民受け入れが幾分問題になってきている)、英語・スウェーデン語・母国語を話せるTrilingualな人が多い。今やスウェーデンで英語を話せない人を探す事の方が大変である。日本は単一民族国家で、日本語だけ話せれば暮らしていける環境が整っている。それに、外国映画も吹き替えで放送しているということもあり、日本人の英語理解能力が成長しないのは当然のこととも言えるだろう。
 また、授業の密度の濃さにも驚いた。先生は殆ど板書しない。そのため自分たちで大事なことをメモしていかないといけない。こんな当たり前のことでも、大学に入った途端やらなくなってしまう日本人学生は多いのではなかろうか。私は間違いなくその1人だった。日本の大学では、先生が黒板に書かない限り自分でノートは取らなかったし、一つの授業で生徒数が200人を超える授業ばかりだったので、先生との距離も遠かった。しかし、スウェーデンでの授業は、開講している授業数が多かった(交換留学生約250人のために、1タームに12~18個の授業が開講されている)こともあり、生徒数は一クラスにつき平均30人、多くても60人くらいであった。先生も一人一人の顔を覚えてくれ、質問もしやすい環境にあった。
 ちなみにスウェーデンでは「教授と生徒」という区分がなく、誰もがFirst Nameで呼び合う習慣があるのだが、最初はそれにとても戸惑った。スウェーデンは平等社会で有名ではあるものの、「そこまで平等にしなくても」というのが率直な感想だった。しかし、結果的には先生に気兼ねなく質問出来る良いシステムだと思った。ただ、スウェーデン国外では適応しないシステムだろうな、と感じた。
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学生の勉強意識

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 「スウェーデン人は勤勉である。」日本人に比べたら歴然であるが、他のヨーロッパの学生達もそう言っていたので、これは本当のことであろう。ディスカッションの講義が多いこの国の学生は、いつも大学のテラスや街のカフェで話し合いをしている。レポートの枚数も15枚など半端ではなく、テストも週に1回や2週間に一回など、厳しいものである。卒業後いい仕事に就きたければいい成績が要求される為、皆必死に勉強するのである。よって、平日にアルバイトをしている学生の話をあまり聞いたことがない。
 日本では「学生=アルバイト」という式が成り立っていて、自分の遊ぶ金欲しさに働いている人もいれば、生活費を稼ぐためにアルバイトしなければならない人も多い。その点、スウェーデンでは学生ローンが発達していて、誰でも国からお金を借りることが出来る。たいていのスウェーデン人は大学進学後1人暮らしをするのだが、学生ローンで生活費を賄い、親には一切頼らない人が多い。
 また、大学も含め、学校の授業料は無料である。税金が高い分、教育システムに投資しているスウェーデンの福祉制度は今後のスウェーデン発展において非常に有効であろう。加えて、在学中の成績が就職に結びつくというのも学生の学習意欲を損なわない点で大変良いことだと思われる。
 勉強に対する意識の違いは、子どもに対する見えない圧力の違いも関係あるように感じる。スウェーデンでは16歳(高校入学)までテストをしてはいけないらしい。というのは法律上のことで、実際にはテストをしているのだそうだが、それはただ単に本人の学力を測るだけで、それで成績をつけるということはないらしい。これは他人との競争を嫌う国民性をうかがわせるだけでなく(スウェーデンは100年以上戦争に参加していないし、またスウェーデン人の性格も穏和である)、子どもにのびのびと勉強を出来る環境を提供している。
 日本では、残念ながら子供には「受験」という言葉が付きまとい、好きでもないのに勉強しなければいけないし、休みなく進学していくのが普通である。例えば大学受験で浪人という言葉が付き物だが、この言葉(マイナスイメージ)の存在自体、受験生にとって大変辛いものだと思う。
 というのも、スウェーデンでは高校を卒業してから1~3年休暇を取って旅行したり語学留学したりするのが普通で、その後大学に入ったときには、その休暇で得た勉強に対する情熱を大学生活に生かしている人がとても多い。そのため、学生の年齢は様々で、26歳でもまだ学生というのはよくある話である。
 日本では22歳で大学卒業、そのあと就職、が当たり前の人生と見られているように感じるが、実際22歳といったらまだまだ子どもで世界を知れていないのに、しかも21歳から就職活動を始めなければならず、21歳のときに今後の人生の選択を迫られるのは大きな負担のように思う。
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日常生活(比較論的考察)

 やはり国が違えば日常生活にも大きな違いがあり、その中でも一番気になった2点について述べていく。
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男女平等

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 スウェーデンに来てまず驚いたことは、ベビーカーに赤ちゃんを乗せて平日の昼間散歩している父親が多いことである。日本では殆ど不可能の光景を毎日見ることが出来るのはとても微笑ましいことであった。育児休暇制度がしっかり確立されているこの国では、男性が育児休暇を取ることは当たり前のことである。1974年、急速なPublic Sectorの発達によって女性労働者が増え、Maternity Insuranceに変わりParental Insuranceが導入された[5]。これによって育児における性的差別がなくなり、父親も母親も子育てにおける平等の権利を有し、子ども誕生後のCash Benefitも同等に受ける権利を持つことになったのだ。現在世界的に少子化が問題になっている中、スウェーデンでは1990年頃、ベビーブームが到来した。それにはこの育児休暇制度が大きく関係していることは容易に想像できる。日本でも少子化は大きな問題になっているので、スウェーデンのシステムを上手く応用できれば、と思う。
 ただ、日本とスウェーデンの家族体系を比べた時、「家族」というものに対して考え方が大きく違うように思えた。スウェーデンでは離婚率が高く、その原因の一つとして女性の社会進出が進んでいることが挙げられることが多い。確かにWorking Age(16~64歳)の女性労働力率は2003年時点76.2%[6]で、皆自分で生計を立てることが可能である。スウェーデンでは離婚は既に当たり前の事で、私のスウェーデン人の友達の両親も殆どが離婚している。この国では離婚、または片親だけということがマイナスイメージになる事はなく、「家族」よりも「個人」を優先する社会の為、離婚後も恋愛を楽しむ人が大変多い。子どももそれに対して反対する訳でもない。
 日本では、近年減ってきたものの、「女は家庭に入る」という昔からの考えが今だ存在し、女性は結婚後退職するか、パートタイマーとして働くのが一般的である。また、離婚というものに対して常にマイナスイメージが付くため、軽く「離婚した」と言えない社会になっている。離婚後の人生(恋愛)のやり直しも大変だろうと思う。私は離婚自体が良いことだとは思わないが、それでも何かしらの理由で離婚してしまった人が、それが原因で不利益を被るのは不平等ではないだろうか。こういう事がなくなればいいと思う。

[5] Sven E. Olsson (1993), p136
[6] レグランド塚口淑子(2002)、P154、資料についてはSCB(Statistiska Centralbyran/Statistics Sweden)から最新のものを得た。 http://www.scb.se/templates/tableOrChart____23369.asp ちなみに男性のそれは79.9%であり、男女間格差が全くないといっても過言ではない。

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移民

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 スウェーデンは移民(特に難民としての移民)を広く受け入れている。その多くは中東からの移民、とくにイランからである。スウェーデンに来る前は、スウェーデンには「金髪碧眼」ばかりと聞いていたので、実際移民が多いのには驚いた。特にイェーテボリにはイランからの移民が多いと聞いた。「皆平等」の社会である為目に見えた大きな差別は存在しないが、やはり態度の違いなどはあるようだ。私が留学中最も仲の良かったイラン人の友人は移民ではなく、Guest Studentとしてスウェーデンで勉強している。それでも中東系の顔だということでたまに差別的な扱いを受けると言っていた。というのも、移民は「移民」というだけで国からかなりの保障が得られる。SFIというスウェーデン語の無料レッスンがあり、ちゃんと出席すると手当てが貰えたりする。移民用の住宅もあるし、ある意味至れり尽せりなのである。しかし、もちろんこれらのお金は税金から賄われている。当然スウェーデン人の不満が移民に向かうことも仕方がないように思う。
 ただ、私が気になっていたのは、スウェーデンにはアジアからの養子縁組が多いということである。親がスウェーデン人で子どもがアジア人であれば、その子が養子であることはどう考えても明らかである。日本では養子といったら日本人が日本人を受け入れるケースが多いように思えるが、スウェーデンでは(というか世界中で?)肌の色の違う子どもを受け入れている。スウェーデン人の友達に「移民は差別されるのに、どうして養子は差別されないのか」と聞いたことがある。明確な答えは出てこなかったが、移民かどうか区別する方法は「名前」らしい。顔が典型的なスウェーデン人でなくても、名前がスウェーデン人であればスウェーデン人として認められるということらしい。移民は基本的に名前を変えないため、そこでまず一つの差別対象になるらしい。一度スウェーデン人の友達にイラン人の友達を会わせた事があるのだが、もちろんスウェーデン人の友達はイラン人の友達が移民だと思い、最初はいい反応をしなかった。しかし、彼女が移民ではないと分かると、態度も変わったように思えた。
 日本では未だに白人至上主義的なものがあり、白人以外の外国人にはいい顔をしないのではないだろうか。私も以前、中東系の人にはいいイメージを持っていなかったが、イラン人の友人が出来、人種というものに対する抵抗がなくなった。結局人は皆同じだ、ということを改めて感じることが出来た。日本は今高齢化と少子化の同時進行しており、近い将来労働力不足が大きな問題になることは承知である。それを補うには外国人労働者を大勢受け入れるしか方法がないというのを聞いたことがあるのだが、このままの日本では、日本に来た外国人が差別的扱いを受け、嫌な思いをするだけになってしまうのではないか、と思う。
 ところで、どこで読んだのかは忘れたが、ある記事で、小泉首相の「2010年に外国人観光客を1,000万人にする」という外国人誘致計画に対する日本人の反応として、「好まない」と言うような意見が多かったのを覚えている。労働者以前に観光客を嫌がっていては、先が思いやられる。まず、日本人の意識改革が必要だろう。その為の教育を政府は何かしら考えなくてはならないと思う。
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≪終わりに≫

 2年終了と同時に留学という、留学経験者の中でも早い時期に留学したこともあり、経済について特に専門的な知識を身に付けぬまま私は海外に飛び立った。その為、他の留学経験者が卒論に向けて企業訪問など専門的なことをしている中、私がしたことといえば授業に取り組むことと海外旅行。こんなことくらいしか出来なかった自分に劣等感を感じることもあったが、結果的には自分にとってとても有意義になった留学生活だったと言える。
 ヨーロッパが初めてだった私は趣味が旅行ということもありここぞとばかり色々な国に足を運んだ。1年間で訪問した国は8ヶ国にのぼる(スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フランス、イギリス、スペイン、イタリア、エジプト)。国によってカラーがあり、短い滞在ながら楽しい旅行になった。イギリス滞在時はイラク戦争、スペイン滞在時はマドリッド列車テロ、エジプト滞在時はイスラム原理主義組織ハマスのトップ暗殺など、世界的事件が沢山起こり、今まで関心が薄かった世界情勢というものに興味を持てたのも良かった(親にはいろいろ心配をかけることとなったが、無事帰国出来たということで許して頂きたい)。
 また、スウェーデンで世界各国からの留学生(実際殆どヨーロッパ人、とりわけフランスとドイツからが一番多かった)に会い、勉強に対するいい刺激を貰うことが出来た。日本の大学に入学してからというもの、楽に単位が取れる授業ばかり取り、勉強そのものに対する意識が減っていたように思える。スウェーデンで授業に参加した時、日本で大学2年間勉強してきたといっても、殆ど身についていなかったことに気付いた。授業でも発言出来ず、ただノートを取る事で精一杯で、今までの2年間私は一体何を学んできたんだろう、と自分の無力さに落胆した。しかし、大学3年でその事に気付けたことは遅いながらも良かったと思う。私にはあと2年間大学生活が残っており、この2年間で全力で勉強しようと心に決めた。スウェーデンでの1年間で、興味深い授業を沢山履修することが出来、且つ英語の授業という環境の中で単位を貰えたということが非常に嬉しかった。
 今後の勉学計画として、まず経済学部の授業で経済そのものをしっかり学ぶことが挙げられる。以前マクロ経済Ⅰを受講し単位を取得したのだが、テスト前の詰め込み知識でテストを受けた為、その後内容は忘れてしまった。スウェーデンで環境経済や国際経済を受講した際、当然マクロ経済が出てきた。勉強したはずなのに一から勉強する羽目になった。要するにテストには合格したものの、自分の知識として記憶するには全く至っていなかったことになる。それに比べ、スウェーデンで単位取得した他の4科目については、日頃から授業に集中していたし、学んだ内容もかなり覚えている。これからは、詰め込み知識でない知識を身に付けるよう、授業に取り組んでいきたい。
 また、その後卒業論文を書く際には、詳しいテーマはまだ絞り込めていないが(あと2年間大学生活があるので卒論テーマが変わることも大いにありうるとは思うが)、スウェーデンで学んだ4科目(Case Studies, A geography of Sweden in International and Regional Perspective, The Development of Swedish Welfare States in an International Context, and Modern Scandinavian Economic History)を生かし、福祉制度、とりわけ家族制度の日本とスウェーデン比較を中心に執筆する予定である。Esping-Andersenによると福祉国家には3つのタイプ[7]があり、De-commodificationの割合によって日本はLiberal寄りのConservative、スウェーデンはSocial Democratに分類される[8]。根本的に違う福祉制度のなかで、日本はどこまでスウェーデンを手本と出来るのか、スウェーデンが誇る男女平等は日本社会でどこまで適用できるのか、非常に興味深い。また、私が個人的に興味のある化粧品会社の戦略などもこのテーマに関連させることが出来れば、さらに深い論文が書けそうである。
 とにかく、これからの2年間で、今までの大学生活でできなかった「学ぶよろこび」をかみ締めていきたい。
 「留学」-20代のときに海外で一年間暮らす&学ぶという経験を積めたことは私の人生の中で大きな転機になった。この留学体験記を通して、私の喜びを沢山の人に伝えていきたし、これからHandelsに留学する人達の参考にもなれば、と思う。
 本当に留学してよかった。そう思う毎日である。

[7] Esping-Andersen (1990), P26-29
[8] 同上, p52 Table 2.2参照

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Appendix:スウェーデン生活豆知識

・ トラムただ乗りできる(が、それがばれると600SEK=9,000円の罰金)
・ スーパーで会計待ちの時、買い物かごは持たずに足で運ぶ(並んでから会計するまで時間がかかる為)
・ 犬が多く猫が少ない(犬は大型犬が多い)
・ 街が広いわりに人は少ない(人口密度が低く、20人/?、ちなみに日本は340人/?)
・ 日本のいわゆるパン屋がない(そのかわりスーパーのパン売り場にはものすごい数のパンが売られている)
・ フランス並みにカフェが多い(そして移民経営の小さな規模のものが多い)
・ アジア人がいても他の国※に比べて好奇の目で見ない(皆平等だから)
・ たまに道端で「チャイナ!」とからかわれる(他の国だとそうやってからかわれることは少なく、ただじーっと見られることが多かった)、ちなみにそうやってからかってくる人の多くは移民の人たちである
・ 大量生産の店が多いため、みんな似たような服(そのため作り上げられた流行が存在する)
・ スウェーデン人は他国の人に比べてファッショナブルである
・ タバコを吸っている人が少ない(その代わりかぎタバコ)、2005年からは全面禁煙になるらしい(カフェやパブで)、ちなみにアイルランドは3月29日に導入済み、ノルウェーも6月1日から
・ 街の人たちは大概英語を話せて人柄がよい(不機嫌な人も最後には笑ってくれる)
・ アイラインの濃い女の人が多い(ビジュアル系?)
・ 髪型皆シンプル(ポニーテール、パーマ少ない)
・ 子どもが多い(どこにでも巨大ベビーカースペースがある)
・ 性描写より暴力シーンカット(映画やテレビで)
・ 経済学部は金持ち多し(おしゃれに気を使っている人が多い)
・ ピザ屋多くて安い、そしておいしい(移民が経営)
・ ジーンズには流行がある(Nodie、Fornarina、Lee)
・ スウェーデン人は買い物好き(服が安いのでみな大量に買っている)
・ カップルでよく買い物に来る
・ コーヒーがものすごく濃い(消費量ナンバーワンらしい)
・ 皆1人でも歩きながらアイスを食べる(そしておいしい)
・ スウェーデン人はグーディス(量り売りのお菓子)が大好き(特にラクリス大人気)
・ タクシーでは客は助手席に乗る
・ テレビの映像がよく乱れる(日常茶飯事)
・ 写真を快く撮ってくれない(あまり写真を撮らないので、というか日本人が撮りすぎ)
・ 乗り物がきれい(他国に比べて)
・ 並ぶのが好き(ATMにはいつも長い行列が出来る)
・ 小さいサイズのポテトチップスがない
・ シャンプーにはお徳用サイズがない(どれもボトルが小さい→明らかに資源の無駄遣い)
・ 道路を横切ろうとしている人がいたら、車は信号がなくても止まらなくてはいけないという法律がある(しかし、そう思って車に注意しないで渡ろうとすると轢かれるので注意)
※この中で言っている「他の国」というのは、私が旅行したヨーロッパ各国のことである
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参考文献

Sven E. Olsson, Social Policy and Welfare State in Sweden, 1993
Gosta Esping-Andersen, The Three Worlds of Welfare Capitalism, 1990
二文字理明・伊藤正純編著(第6章 レグランド塚口淑子)、『スウェーデンにみる個性重視社会』、2002
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参考ウェブサイト

日本財団ホームページ
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00146/contents/006.htm
SCB(Statistiska Centralbyran/Statistics Sweden)
http://www.scb.se/templates/tableOrChart____23369.asp
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