先進国留学のすすめ (高井哲彦 Vol.5)

留学マニュアル

■先進国留学のメリット
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 第1に、生活上のハードルが低いことです。非英語圏でも教育言語が英語に統一されつつあります。英語だけで取得できる学位が急増中で、北欧やドイツでは現地語を話せなくても生活できます。学費免除や奨学金の機会もあります。生活環境の快適さは言うまでもありません。
 第2に、英語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ロシア語等は、先進国と途上国をつなぐ共通語でもあります。これらの言語を知っていれば、新聞・雑誌・テレビでの論談や、文学・演劇・オペラなどの芸術を楽しみ、大学院水準の研究をも極められる一方、中南米・アフリカ・中央アジアでの工場・鉱山の現場や国際援助でも役立ちます。
 第3に、大学院教育の充実です。とくに学位を目指す場合、十分な語学スコアと学費を準備してから、大学ランキング上位校を目指すことを勧めます。学部生でも、もし将来的に海外大学院を考えているならば、先進国での厳しい競争を経験しておくことは有用です。
 先進国の「有名校」は、教育体系も優れていますが、国際的な人脈作りにも役立ちます。その学位は国際規格にパスしたという「品質保証」にもなります。多国籍企業・国際機関にも学歴主義があり、IMF のエコノミストが米国トップ 10 校の出身者でほぼ独占されることは有名な話です。日本の企業社会でも、素人にピンと来ない「無名校」の学位は、海外現地では名声があり、教育内容が優れていても、正当な評価がされない傾向です。
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■先進国留学の注意点
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 第1に、語学と費用のハードルが高いことです。学部生の交換留学の場合、専門的な勉強には到達できないので、「先進国の一流大学でなければ」という偏差値主義には意味がありません。先進国では課題に追われ競争に委縮する人もいます。逆に途上国で居場所を見つけ、伸び伸びブレイクする大器晩成型もいます。語学研修の場合も、TOEIC600 点を 800点に上げる費用は、アメリカとフィリピンでは 2-3 倍違うでしょう。
 第2に、本人が意識的に目配りしないと、途上国への耐性がつかないことです。実際のビジネスの現場は途上国の方が多いはずですが、年を取ってから第 2 のカルチャーショックを経験するのは、楽ではありません。
 第3に、欧州語の地盤沈下です。実際、言語人口を見ると、ドイツ語(1.3 億人)を頂点に、スウェーデン語は東京都民、フィンランド語は北海道民程度の言語人口しかおらず、少子高齢化が深刻です。江戸時代の洋学の窓口だったオランダ語は、現代オランダの大学院ではほとんど放棄され、全講義が英語で教えられるようになりました。北欧語も同様です。
 もちろん、各国固有の文化・歴史・生活を理解する意味はもちろん減じません。が、先端科学技術を学ぶ「共通語」としては、20 世紀のラテン語同様、欧州言語は歴史的役割を終えつつあるのかもしれません。ちなみに、日本語の運命も気になります。オランダ語や北欧語の動向は他人事ではないでしょう。
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